現代のユダヤ教礼拝で香がほとんど用いられないのは、香の奉献が本来「エルサレム神殿における祭司だけの特別な儀式」であり、神殿崩壊後は宗教法的に継続できなくなったためです。古代イスラエルでは、ケトレトと呼ばれる特別な香が神殿の金の祭壇で焚かれ、これはモーセに与えられたとされる厳密な調合法に基づいていました。この香は神殿専用とされ、一般の場で再現することは禁じられていました。
しかし、紀元70年に第二神殿がローマ軍によって破壊されると、祭司制度と神殿祭儀は完全に停止しました。ユダヤ教はその後、シナゴーグ中心の祈りへと移行し、神殿で行われていた儀式を模倣することは避けられるようになりました。これは、神殿祭儀はあくまで「神殿が再建されるまで待つべきもの」とする伝統的な考え方に基づいています。
また、ケトレトの調合法は神殿専用であり、現代において再現すること自体が宗教法的に禁じられているため、礼拝で香を用いることは不可能とされています。例外として、安息日明けのハボダー儀式で香を嗅ぐ習慣は残っていますが、これは神殿祭儀とは別の文化的行為です。
このように、神殿祭儀の神聖性を守るための宗教的原則と歴史的背景が、現代ユダヤ教における香の不使用につながっています。