俳家の酒

僕には、俳句を詠む意味が見出せなかった…

あま六の俳家の酒 わずか17文字で何が表現できるというのか。美を表出させるにも、主張を込めるにしても余りにも短かすぎる。さらには季語を用いるなどのルールに従っていれば、これはもう、対峙する景色の前で固まってしまうしかない…
 しかし、この文芸は何百年という年月を生きながらえ、今では日本のみならず世界に広がっている。テレビをつければ人気番組にも取り上げられ、誰もが縛り付けられた表現の自由の前で喜々としている… 


「俳家の酒」は、ある男の俳句観である。Rockets

⇒ 「俳家の酒」令和6年4月から情句百物語にて8回に分けて掲載予定。


【目次】

其の一「龍」
永平寺の門前で醸し出される名酒「龍」。それまでの常識を打ち破り、「大吟醸」を世に知らしめることとなった、画期的な日本酒である。
其の二「世捨酒」
俳聖芭蕉の酒の句に、「くわのみや花なき蝶の世捨酒」。「桑の実」の「桑」と「僧」を掛けて、僧門を潜ることを意味する。華のない人生を生き切ることの覚悟。
其の三「餘波」
黒龍酒造の「餘波(なごり)」は、松尾芭蕉の「物書きて扇引きさく餘波かな」から名を取った限定酒。「奥の細道」の旅の途上詠まれたこの句は、別れを歌ったもの。
其の四「獺祭」
日本一の人気を誇る日本酒「獺祭」。自らを「獺祭書屋主人」と称した近代俳句の生みの親・正岡子規へのリスペクトが醸し出す、限りなく澄み切った純米大吟醸酒。
其の五「男山」
現代に生き残る江戸時代の名酒「男山」。「くだらない」の言葉をも生み出したこの酒は、数多くの句を生み出してきた歴史の証人でもある。
其の六「白雪」
現存する最古の日本酒銘柄として知られている「白雪」。そのラインナップに「江戸元禄の酒」があり、芭蕉の時代に飲まれたであろう酒の味わいが再現されている。
其の七「三文字」
「東の芭蕉、西の鬼貫」とも讃えられた俳諧師に上島鬼貫がいるが、鬼貫の生家は今は無き「三文字」を醸す大きな酒造だった。俳諧はいつも酒とともに在った。
其の八「白鷹」
神宮御料酒「白鷹」。伊勢神宮に奉られる日本酒である。その伊勢神宮の神官に荒木田守武という人物がおり、俳諧の黎明期に大きな足跡を残し、俳祖と呼ばれている。